聴覚障害の学生が在籍しているゼミ

聴覚障害の学生がゼミに参加した時のことを教えてください

山田 : 聴覚障害の学生の受け入れは初めてで、対話型授業であるゼミのサポート体制づくりは手探りでした。まず演習(ゼミ)の学生全員がノートテイカー(聴覚障害者の隣に座り、要約筆記によって授業内容を伝える人)になれるように講習を受けました。次に、ゼミでは議論があり、ノートテイクだけでは議論を十分に伝えることができないので、チャットツールで参加者全員が議論に参加できるようにしようと考えました。無料のチャットを探しクラウド型のチャットワークを知り、2013年4月に導入しました。

関西学院大学・三田キャンパスがゼミの拠点。
山田教授のゼミ、3・4年生合同授業の様子。
グループチャット「山田ゼミ」では、授業内容の要約・学生の意見や質問が授業中にどんどんアップされる。聴覚障害の学生はリアルタイムに対話を理解できる。

授業のサポート体制は、チャットワークとノートテイク

授業のサポート体制を詳しく教えてください

山田 : チャットワークとノートテイクでゼミの内容とゼミ中の対話を聴覚障害の学生に伝えています。

ゼミでは、プロジェクタ2台2画面で進めます。一台には発表者が資料を表示します。もう一台はチャットワークを表示し、議論のログとしてゼミ学生からの意見や質問・教員の私からの指摘・参考情報などをリアルタイムに書き込みます。学生はこれを読んで対話の内容を理解します。

「対話」を聴覚障害者に伝えるチャットワーク

山田 : 通常使用しているゼミ室にはゼミ生1人1台PCがあるので、各自PCからチャットワークに投稿します。ゼミ生全員が参加する場合には、中規模の教室を利用します。この時は、プロジェクタを2台利用できる教室を借ります。そこでは、私はPCから、学生はスマートフォンからチャットワークに投稿します。

授業中、チャットワークのスマートフォンアプリで質問を入力する学生。

聴覚障害者が授業に参加するための一般的な手法「ノートテイク」

山田 : 授業中、聴覚障害の学生を2人のノートテイカーがサポートします。PC担当のノートテイカーは聴覚障害者の斜め前に座ります。授業内容はPC画面に大きなフォントで表示され、聴覚障害の学生はその文字を読むことで発表者の口頭報告を理解します。筆記担当のノートテイカーは聴覚障害の学生の隣に座り、発表者の口頭報告の内容でPC担当が入力できない数式や資料指示などを筆記で補います。

授業の内容を聴覚障害者に伝えるノートテイク

チャットワークがあれば、聴覚障害者は議論や質問ができる

チャットワークの効果について教えてください

聴覚障害の学生が対話に参加できる

山田 : 議論のために学生が一斉にしゃべりだすことがしばしばあります。こうした時、ノートテイクでは追いつきません。チャットワークならその内容を聴覚障害の学生にリアルタイムに伝えることができます。先生や報告者の発言はノートテイクで分かりますが、学生の発言はノートテイクでは追いつきません。チャットワークに学生が自分の発言を書き込むことで、聴覚障害の学生は、学生相互のアクティブなやり取りを理解できるようになりました。

聴覚障害の小浦さんに質問です。チャットワークによって授業の理解度は変わりましたか?

小浦 : これまではたくさんの人が発言すると、その内容を把握するのが困難でした。チャットワークを使うようになってからは、チャットワークを見ているだけでリアルタイムに大勢の発言を理解できるようになりました。また、以前は授業を聞いているだけで精いっぱいで、黙っていることしかできませんでしたが、チャットワークを使って発言もできるようになりました。

ゼミの発表会で、聴覚障害の小浦様がプレゼンする様子。はっきりとした発音ではないので聞き取りにくいけれど、要約がチャットワークに書き込まれるので、内容を全員理解できる。彼女への質問もチャットワークを通じて文字で送られ、それを読んで質問に答えている。

発言の対等性が生まれる

山田 : 聴覚障害者のサポート以外にも、学生の発言が対等になる効果があります。全員発言するように言うと、皆チャットワークに意見や質問を入れます。チャットワークが良いのは、声の小さい学生でも同じように発言できることです。後からポロポロ入力しても漏れなく出てきます。チャットワークが学生に平等に発言し、ゼミに貢献するチャンスを広げていると感じます。

授業の理解が深まる

坂本 : チャットワークを使うと授業内容が文字で残ります。文字を見ることで情報がその場でインプットされる感覚があります。授業内容を文字に起こすことの効果だと思います。その分、他の授業に比べてゆっくり進みますが、ログが残るので授業を休んだ時にも役立ちますし、留学生も後で見返すことができます。

「授業内容が文字で残ることで理解が深まります。」と3回生の坂本様。

クラウドツールだから、見学・合宿など学外の授業にも対応

課外授業でも活用しているそうですね

山田 : 2013年は企業見学と飛騨高山でのゼミ合宿の両方でチャットワークを使いました。学外でもチャットを使った議論ができ非常に重宝しました。クラウドアプリケーションの一番良い点ですね。使う場所を選びません。以前使っていたチャットサービスはインストール型で、学外やゼミ室以外の場所では一切使えず、手書きとノートテイクだけでしのいでいました。

ゼミ室以外でゼミ活動をする時、1人1台PCを持って外出するのは難しいです。チャットワークがクラウド型であり、スマートフォンアプリがあるおかげで、ゼミ室以外でもチャットを使ったゼミ活動ができるようになりました。

導入が簡単で、特別なIT知識がなくても使いこなせるツール

最後に、聴覚障害の学生のサポートに関心のある方にメッセージをお願いします

山田 : チャットワークを使った授業がうまくいくかどうかは、学生の入力の速さ・スマートフォンの使い方などITリテラシーに頼る面がありますが、少なくとも大学生であれば学生は十分使えます。また、コンピューターの知識が豊富ではないという場合でも、チャットワークはインターネットブラウザからアクセスできるツールなので楽に導入できます。というのも、チャットワークの前に使っていたインストール型のチャットサービスはPC20台にインストールが必要で、設定に3〜4日もかかり、導入時にヘトヘトになりました。予期しない動作も多く、トラブル処理でゼミの時間が無駄になることもありました。

チャットワークが最初からあればとても楽だったと思います。導入は学生一人ひとりがユーザー登録をして、授業用のグループチャットに参加するだけです。チャットワークの導入にかかった労力は、以前のツールに比べると1/10かそれ以下でした。"導入時や利用中に苦労しなくていいツール"を選ぶことは、利用中の心理的な抵抗を軽減してくれるので教員のゼミ運営にとっても大切です。

「聴覚障害にかぎらず、ゼミのログを残しておきたいという場合にも議事録のような使い方もできます。」と話す山田教授