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明治大学

 様に導入

日本のサービス産業にイノベーションを!  ディープラーニングに必要な環境をクラウドでスピーディーに整え、大学の枠を超えた "文理融合" の共同研究を実施

写真:明治大学

明治大学 中野キャンパス

明治大学中野キャンパスで、AI、ディープラーニング、テキストマイニングなどを活用して「人の意志決定をデータに基づいて分析・サポートする機械学習システム全般」に関する研究を行う、総合数理学部 ネットワークデザイン学科 機械学習システム研究室 (櫻井 義尚 准教授) では、明治大学が 2015 年 1 月から女性研究者支援の一環として運用している「研究サポーター制度」を活用したことをきっかけにして、大学と研究分野の枠を超えた "文理融合" の共同研究を本格的にスタート。"テーマパークにおけるホスピタリティ" を学ぶ西武文理大学の学生たちと共に、日本のサービス産業のイノベーションに貢献するための研究に取り組んでいます。

<背景とねらい>
学際的な分野に属する "機械学習" 研究を、大学の枠を超えた "文理融合" の共同研究で加速

写真:明治大学 総合数理学部 ネットワークデザイン学科 専任准教授 博士 (工学) 櫻井 義尚 氏

明治大学
総合数理学部
ネットワークデザイン学科 専任准教授
博士 (工学)
櫻井 義尚 氏

写真:西武文理大学 サービス経営学部 サービス経営学科 専任講師 櫻井 恵里子 氏

西武文理大学
サービス経営学部
サービス経営学科
専任講師
櫻井 恵里子 氏

明治大学は創立以来、「権利自由、独立自治」という建学の精神に基づき、「個」の確立を通じて近代化を図るべきであるという視点を貫くことで有為な人材を数多く輩出してきました。
そして近年、明治大学では、人と情報がネットワークでつながり流通のグローバル化が進む経済環境と、AI などのテクノロジーが飛躍的に進化すると予測される将来を見据え、「個」の確立のみならず、人類全体の課題解決に向けて共に考える「共創力」を育てることを重視。多様な意見と存在に向き合うダイバーシティ・フレンドリーキャンパスの創造に向けたさまざまな取り組みを行っています。

その一例として挙げられるのが、女性研究者支援の一環として実施された「研究サポーター制度」です。

平成 26 年度文部科学省科学技術人材育成費補助事業「女性研究者研究活動支援事業 (一般型)」の採択を受けて実施されたこの制度は、ライフイベント中の女性研究者への支援者派遣と、イベント (シンポジウム・セミナー等) 活動を担う支援者を募集するものとして、2015 年 1 月から運用されています。

この制度活用をきっかけとして、"文理融合" となる学際研究を進めているのが、櫻井 義尚 准教授率いる総合数理学部 ネットワークデザイン学科 機械学習システム研究室 (以下、櫻井研究室) です。
櫻井研究室は、AI、ディープラーニング、テキストマイニングなどを活用して「人の意志決定をデータに基づいて分析・サポートする機械学習システム全般」に関する研究をしています。

櫻井 氏は男性であり、理系の櫻井研究室内も男性がほとんどを占めているため、研究サポーター制度を活用していたことが不思議にも思えますが、実は櫻井 准教授の妻であり、研究の良き理解者・協力者でもある櫻井 恵里子 氏が、2015 年 4 月から西武文理大学 サービス経営学部 サービス経営学科で教鞭を執り始めていました。夫妻には幼い子どももおり、育児の負担もあります。お互いが研究にかける時間と労力を増やすため、明治大学の「研究サポーター制度」を申請し、活用していたのです。

日本のサービス産業におけるイノベーションに、機械学習システムを活用

そして「研究サポーター制度」のメリットをフルに活かすことで、大学および分野の枠を超えた、櫻井夫妻の共同研究がスタートしています。
目標は、"機械学習システム活用し、日本のサービス産業におけるイノベーションに貢献すること" でした。

恵里子 氏は以前、株式会社オリエンタルランドに勤務し、商品開発部や人材開発部、CS 推進部を経験。『「一緒に働きたい」と思われる心くばりの魔法 ディズニーの元人材トレーナー 50 の教え』という著書も記すほど、テーマパークの造詣の深いコンサルタントでもあり、西武文理大学では「レジャー産業論」や「キャリア論」などを担当し、学生たちにテーマパークにおけるホスピタリティなどを教えています。

この恵里子 氏の研究と、櫻井研究室を結び付けたキーワードが、「キャプション評価法」です。

キャプション評価法とは、1996 年に東京大学の古賀 誉章 氏 (当時) たちによって提案された環境評価手法です。具体的には、調査員が町に出てそれぞれ気になった場所を写真に撮り、紙に貼って、例えば、「この案内看板は分かりにくい」、「この段差は、車椅子では通りにくい」など、改善が望まれる事柄を写真のキャプションとして記載していきます。こうして調査員たちが作成した書類をベースに、ワークショップでヒアリングを行い、深掘りしていきます。

恵里子 氏は、オリエンタルランド在職中にこのキャプション評価法を、海外からの旅行者が東京ディズニーランド内で、何を感じ、どのような改善を望むのかを調査するために応用した経験がありました。
「海外からのお客様のご意見は、非常に参考になりました。写真に添えられたキャプションだけでは、言葉が短く、一方的な内容になりがちですが、ワークショップを通じてお客様が感じたことを深く聞き出すことで、私たちとはまったく違う視点から、気付きを得ることができます。非常に有効な調査方法だと実感しました。」

櫻井研究室では、このキャプション評価法をさらに発展させるために、機械学習システムを活用。利用情報 (お客様および調査員のコメント) を収集するためのスマートフォン用調査アプリケーションと、意見分析のためのエンジンを開発し、櫻井研究室で従来から使用してきたテキスト マイニング ツールを組み合わせた機械学習システムを開発し、「ユーザー参加型マーケティング調査システム」と名付けています。

写真:櫻井 義尚 氏と櫻井 恵里子 氏

恵里子 氏は次のように説明します。
「従来のキャプション評価法は、紙ベースで資料を整えてきました。しかし、夫は以前から『紙で進めていては、いつまで経ってもビッグデータ化はしない。システム化してデータ量を増やし、効率よく分析・活用していく方がいい』と提案してくれていました。そして、私が西武文理大学でテーマパークにおけるホスピタリティなどのテーマを教えることになると、早速ゼミ生の力を借りて、調査用アプリケーションを開発し、本格的な共同研究がスタートしました。初年度の研究成果については、すでに日本マーケティング学会のカンファレンス 2016 でも『環境評価手法であるキャプション評価法のテーマパーク調査への適用事例』として発表しています。」

スマートフォン用アプリとディープラーニングで「キャプション評価法」を進化

櫻井研究室の「ユーザー参加型マーケティング調査システム」は、ゼミ生が開発したスマートフォン用調査アプリケーションを活用することで、テーマパークやショッピングモールなどの大規模サービス施設における調査を大幅に効率化します。
従来のキャプション調査法では、ワークショップに必要な情報を揃えるために ① 調査員 (またはお客様) 各自がカメラで撮影 → ② 撮影した画像を印刷して調査票に張り付け → ③ 紙の上にキャプションを記入するという 3 つの手順を必要としていましたが、このシステムでは写真撮影からコメントの記入までを一気にスマートフォンで行い、サーバーにデータを送信・集約するところまで 1 ステップで完了。さらに、スマートフォンの GPS 機能を活用することで、調査員の行動経路も把握できるだけでなく、調査状況をリアルタイムにモニターしながら、介入などもできるため、調査失敗の確率が格段に下がります。こうしてサーバーに集められたデータは機械学習システムによって分析され、ワークショップの際に、活用されます。

写真:研究室イメージ

このシステムではさらに、Twitter などの SNS が公開している API を活用して、調査対象となるテーマパークやショッピングモールの名称などのキーワードを含む投稿テキストを収集。ワークショップで参照できるデータの絶対量を増やすことで、「個人的な主観」から「多数の意見も踏まえた、より客観的な分析」へと評価を行えるように工夫されています。
SNS から集められた膨大なテキストを、マイニング ツールとディープラーニングを活用して分析。調査員たちが関心を示し、写真を撮ったポイントと関連する情報を、システムが自動的にリコメンドします。

義尚 氏は次のように説明します。
「機械学習システムが SNS 上のデータから有効な情報を抽出し、まるでコンシェルジュのようにリコメンドした情報を、少人数である調査員たちの視点が特異なものに過ぎないのか、それとも、一般的な視点に近いのかを判断する 1 つの材料として利用します。機械学習システムがリコメンドするデータは、あくまでも参考情報に過ぎません。どの情報を選び、ワークショップに活かしていくかは、ファシリテーターのセンス次第です。機械学習システムは、あくまでも "人をサポートするため" のものですし、テーマパークやショッピングセンターのホスピタリティやサービス向上には、"人の心" が欠かせないのですから。」

こうした機械学習システムのために、義尚 氏は従来からローカルの PC サーバー上に構築したツールを使用してきました。しかし、SNS 上から収集する膨大なデータを保存・分析するには、ストレージ容量および計算リソースがまったく足りません。
そこで、この研究の開始時から活用されているのが、マイクロソフトの提供するパブリック クラウド、Microsoft Azure です。SNS や企業のオープン データなど、膨大なデータは、Azure SQL Database (テキスト) と Azure BLOB Storage に保存し、分析を行う際には、PC サーバー上にあるシステムを仮想マシンとして Azure 上に移行することで、潤沢な計算リソースを活用しているのです。

また、パブリック クラウドである Azure 上の環境には、インターネットさえあれば自由にアクセスできるため、明治大学中野キャンパス (東京都中野区) にある櫻井研究室から遠く離れた、埼玉県狭山市にある西武文理大学のキャンパスで被験者実験などを行うことに、まったく支障がありません。
このように便利な環境が整っていることも、共同研究が円滑に進んでいる要因の 1 つだと義尚 氏は話します。

<Azure の採用理由とシステム概要>
研究者が、計算環境の構築やサーバー管理などの手間から解放され、スピーディーに研究を進めるために豊富な機能が揃った Microsoft Azure を選択

実は、櫻井研究室がパブリック クラウドを本格的に活用したのは Azure が初めてです。これまでは、新しい研究環境整える際にはハードウェアを調達して学内にサーバーを立てることが常でしたが、「大学の研究室にとって、パブリック クラウドを活用する意義は非常に大きい」と、義尚 氏は強調します。

「学内にサーバーを立てて外部に公開するためには、申請承認の手間がかかります。大学が規定するセキュリティの確認にも工数がかかるため、準備を整えるまでにかなりの期間を要します。しかも、公開後はサーバーの運用・保守まで自分たちで行わなければなりません。加えて、ディープラーニングには、高速計算のリソースとメモリを大量に必要とします。研究室内に、要件を満たすサーバー環境を調達するだけでも数百万円は必要です。一方、パブリック クラウドを活用すれば一定以上のセキュリティが初めから保障されている上に、サーバーの運用・保守も不要です。機械学習の研究に必要な高速計算もメモリも、即座に整います。このスピード感とスケーラビリティは非常に重要です。しかも、従量課金制ですから、高速計算を行わない時にはシステムを止めておけばいいのです。さらに今、『Data Science Virtual Machine for Linux (Ubuntu)』(Azure Marketplace にて配布) という新しく配布されたイメージを使った実験もしているのですが、R と Python のライブラリをはじめ、必要なものがすべて含まれているので、時間のかかる環境構築が一気に完了します。本当にありがたいですね。」

さらに義尚 氏は「Azure Machine Learning 」や「コグニティブ サービス」など、機械学習の機能を Web-API として簡単にインターネット上に用意することができる、研究者にとって便利な機能やサービスが豊富に揃っているからこそ、Azure を選んだ」と説明を続けます。

「私たち研究者は、エンジニアではありません。研究に必要なインフラを整えることは、専門外の作業になります。その点、Azure には Azure Machine Learning のように機械学習のモデルを簡単に作成できるサービスが標準で用意されていて、本来なら Hadoop や Spark といった並列計算システムを構築したうえに実装しなければならないような機械学習サービスを、サービスのレスポンスを考えたパフォーマンス設計などを意識せずに簡単に構築する事ができます。しかも、機械学習やコグニティブ サービスに関する豊富な機能を組み合わせたり、自分で書いたコードを組み込んだりして、独自にカスタマイズした機械学習 Web-API を作ったりすることもできるなど、非常に拡張性が高いです。」

櫻井研究室ではこのほかにも、画像認識や音声認識など、研究の中核課題とは異なる機能については Web-API を活用。各種研究のスピード感を向上させていると言います。
「今後は、環境をすべて Docker でコンテナ化して、プラットフォーム間の移行を簡単にしたいと思っています。Azure も、Docker をサポートしていますので圧倒的に楽になると思います。」(義尚 氏)

写真:研究室イメージ

<今後の展望>
大学も、研究内容も、すべてが異なる "文理融合" で学生たちの成長まで促進

明治大学と西武文理大学の共同研究は 3 年目を迎え、十分な手応えを感じていると櫻井夫妻は声を揃えます。
元々、「すぐにでも、企業に活用してもらえるようなシステムを目指した」という「ユーザー参加型マーケティング調査システム」は今も改良が進んでいます。ユーザー同士がチャットを通じて情報を交換する "JoyMot (ジョイモット)" という機能を搭載するなど、「より多くの人が "楽しめる" スマートフォン用アプリケーションとして配布することで、より多くお客様の声を集められるよう、工夫を続けている」と、恵里子 氏は言います。

「テーマパーク来園中のお客様がアトラクションに並んでいる間も楽しめるような仕掛けはとても重要で、企業にとっても価値のあるものになると思います。JoyMot では、GPS やセンサーで把握したお客様の位置や行動から、機械学習システムが "お客様にとって有益そうな情報" を判断し、リコメンドすることを想定していますが、そのほかにも、テーマごとにチャットのコミュニティを作成してお客様同士で自由に情報交換していただくことも可能です。例えば、『お気に入りのキャラクターが今、ここにいる!』といった情報をリアルタイムで交換していただくと、今までよりも、楽しく遊べるようになると思います。楽しく遊んで、共通の趣味を持った仲間と意見交換する中で、自然とキャプション評価法にも参加していただければ、アプリを使うお客様にとっても、お客様の生の声が欲しい企業にとっても、非常に有意義なものになると思います。」

この JoyMot という機能の発想は、マイクロソフトが主催する世界規模の IT コンテストである Imagine Cup にエントリーした際に学生主導で生まれたもので、「ユーザー参加型マーケティング調査システム」には、学生たちの意見や実体験が大きく反映されています。共同研究を通じて、学生たちが闊達に意見交換を行う姿に "文理融合" の効果を実感していると、櫻井夫妻は話します。

「共同研究を通じて一番強く感じていることは、"学生がより良く育つ" ということです。やはり、文化の異なる人たちと交流する時間は貴重です。狭い研究室に閉じこもっていると視野が狭まりますし、会話の文脈まで固定化されてしまいます。しかし、社会に出れば、専門用語が通じない相手にも分かりやすく説明する能力が必要です。その意味でも、西武文理大学との共同研究は、学生たちにとって良い刺激になっていると思います。」(義尚 氏)

「理系と文系で、論文の在り方が全く違いますし、うちの学生たちは櫻井研究室のゼミ生たちが一生懸命に研究する姿勢に、感銘を受けていたようです。逆に、西武文理大学の学生たちはコミュニケーション力が高いので、それが櫻井研究室のゼミ生たちに良い影響を与えているのであれば、うれしいですね。私自身、企業に勤めている時から、分野を超えた交流は非常に重要だと思っていましたし、AI や機械学習などは、まさに学際領域にあって、研究者同士の交流が大切なのだろうと思っていました。その思いが間違っていなかったことを、強く実感しています。」(恵里子 氏)

義尚 氏は最後に、「機械学習を活用することで、より良い社会へと変わっていくことが願い」であると語ります。
「元々、私の研究に共通しているテーマは、『機械学習を活用して、人間をサポートするシステムを作る』ということなんです。例えば海外では、データ・サイエンティストが活躍し、データ分析をビジネスに活用する状況が以前から整っていますが、文化的な違いからか、日本の状況は異なります。冒頭、『日本のサービス産業におけるイノベーションに貢献する』という目標をお話しましたが、そのためには感覚だけに頼らずもっとデータを活用した取り組みが重要です。文化的な壁を超えて変革を促すためには、これまで、PC やインターネット、スマートフォンの浸透が私たちの生活を変えて来たように、機械学習システムがビジネスや生活に浸透していくことで自然とデータを活用できる体制や文化を醸成していくことが有効なのだと思います。そして、そのような夢も、Azure のようなインフラも整い、スマートフォンやタブレットなど多様なデバイスが浸透している今であれば、遠くない将来に実現できるのではないでしょうか。」

「ただし」と義尚 氏は言葉を区切ります。
「意思決定の主役は、あくまでも "人間" です。機械学習は、どこまで進化しても "人間をサポートするもの" でなければなりません。囲碁や将棋で AI がプロ棋士を破ったというニュースが目立つこともあって、『AI の方が優れているのか?』という議論になりがちですが、その一方では『人間と AI が協力した方が、より強くなる』という研究もあります。私は、人間と機械が協調することで、より良い社会が実現できると思います。」

写真:2 名様集合写真

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