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導入事例

 様に導入

佐賀県立盲学校

 様に導入

視覚支援学校で Windows 8 タブレットを導入し、 1 人 1 台の環境を整備
児童生徒の個性に合わせ多様な形で活用、学習意欲の向上にも貢献

写真:佐賀県立盲学校

佐賀県立盲学校

佐賀県下で唯一の視覚障碍 (しょうがい) のある方のための教育機関である佐賀県立盲学校。約 30 名が学んでいるここでは、2013 年に Windows 8 タブレットが導入され、児童生徒 1 人 1 台の環境で授業が行われています。Windows タブレットが選択されたのは、視覚障碍のある方向けのソフトウェアが充実していること、タブレットとキーボードで多様な使い方が可能なこと、点字関連のソフトウェアや機器などこれまでの資産との互換性が評価されたからです。導入されてからまだ 1 年ですが、それぞれの先生が積極的に活用方法を考案し、タブレットを多様な形で授業に組み込んでいます。また児童生徒自らが独自の活用方法を編み出すことも多く、学習意欲の向上にも貢献しています。2014 年度には高等部へも導入もされ、ICT を活用した進学や就労に向けた学習にも期待が寄せられています。

<導入の背景とねらい>
教育にける ICT 活用に積極的な佐賀県
その中でも、特別支援教育にこそ ICT を

佐賀県立盲学校
教頭
山田 勇 氏

佐賀県立盲学校
教諭
宮田 義弘 氏

子ども達の情報活用能力を高めるうえで、重要な課題となっている教育現場での ICT 活用。ビジネスや日常生活で情報機器の活用が浸透している現在、情報格差を生み出さないためにも、この課題への取り組みが急務になっています。しかしタブレットやスマートフォンの普及に伴い、情報機器の種類は多様化しており、利用できるソフトウェアも膨大な種類が存在します。どのような機器を選択し、それらを活用してどのような教育を行うべきなのか、悩んでいる教育関係者は少なくないはずです。

そのような中、教育現場での ICT 活用のあるべき姿を明確に打ち出し、それをベースに多様な取り組みを展開している学校も、既に存在します。その 1 つが、佐賀県立盲学校です。ここでは初等および中等教育向けの学習用端末として児童生徒に 1 人 1 台、Windows 8 タブレットが 2013 年に導入されました。

同校は佐賀県で唯一の視覚障碍のある子どものための教育機関。幼稚園、小学校、中学校、高等学校に準じた学習と共に、個々の児童生徒の障碍の特性に応じたきめ細かい指導も行っています。眼鏡などで矯正しても両眼の視力がおおむね 0.3 未満の子どもたちなど、約 30 名がこの学校で学んでいて、高校を卒業した人が専門学科を学ぶ「専攻科理療科」も設置されており、ここを修了することで、あん摩、マッサージ、指圧師、はり師、きゅう師の国家試験資格を得ることも可能。成人してから視覚障碍を持つようになった人々の技能習得や相談を受ける窓口としても、重要な役割を果たしています。

「ここで学ぶ子どもたちの将来の可能性を広げることは、私どもの重要なテーマです」と語るのは、佐賀県立盲学校で教頭を務める山田 勇 氏。現在では ICT がどの仕事でも使われるようになっており、視覚障碍があっても他の人々と同等の ICT スキルを身につけることが不可欠だと説明します。これに加え、身近なデジタル デバイスを使いこなせるようになることで、生活の質を高めることも可能になると指摘します。

また、「視覚障碍のある子どもの学習方法にも、ICT は新たな可能性をもたらします」と言うのは、佐賀県立盲学校 教諭の宮田 義弘 氏です。たとえばまったく文字を見ることができない全盲の子どもは、通常の紙の書籍を読むことができないため、授業でも教科書の内容が点字で書かれている点字教科書を使用することになりますが、教科書以外の点字の教材の数は大変少なく、学習のためのコンテンツの入手が制約されてしまいます。しかしタブレットで、画面の情報を読み上げるソフトウェア「スクリーンリーダー」を使用すれば、インターネット上にある膨大な量のコンテンツを聞いて理解することで、教材として活用できるのです。

また弱視の子どもは、教科書の文字や図版が拡大されている拡大教科書を使用することができますが、見やすい文字などの大きさは子どもによってそれぞれで、拡大率が固定されている紙の拡大教科書はすべての子どもにとって見やすいわけではありません。しかしタブレットを使うことで、それぞれの子どもが教材などを、自分が見やすい大きさや明るさ、コントラストに変更をして、学習を行うことができます。「これまで見えにくかったものを、より見やすくすることが、タブレットで可能になるのです」。

佐賀県立盲学校が 1 人 1 台のタブレット PC を導入した背景には、佐賀県教育委員会の ICT 利活用教育に対する積極的な姿勢があります。

佐賀県では 2011 年度に、教育の情報化における推進目標と工程を具体化した「先進的 ICT 利活用教育推進事業」を策定。県の最重要施策として、全県規模での取り組みを開始しています。2012 年度にはそれまでの実証実験の成果分析を行い、ICT 利活用教育の効果と課題を整理。これに基づき、県立中学校と、佐賀県立盲学校を含む県立の特別支援学校を対象に、全ての教室への電子黒板の設置、校内無線 LAN 環境の敷設、児童生徒全員が 1 人 1 台利用できる学習用端末の整備が進められました。そこには、通常の学級だけでなく、ICT を活用した教育は特別支援学校にこそ必要、という考えがありました。

<導入の経緯>
過去の資産活用とキーボードの存在は必須条件
多様な使い方ができることも高く評価

佐賀県立盲学校
教諭
青山 修二 氏

それではなぜ佐賀県立盲学校では、学習用端末として Windows 8 タブレットを選択したのでしょうか。大きく 3 つの理由があると宮田 氏は説明します。

まず第 1 は、これまで蓄積してきた資産をそのまま活かせることです。佐賀県立盲学校では 1990 年代から、点字の教材作成に Windows PC が活用されていました。またパソコン教室での授業も Windows PC で行われており、そこでは高性能なスクリーンリーダーなどが利用されていました。「このようなソフトウェアは Windows 上で開発されており、現在も Windows 以外では動きません」と宮田 氏。これらは重要な教育資産であり、これを活かすには Windows 以外の選択肢は考えられないと言います。

第 2 は多様な使い方が可能なことです。「ひとくちに "視覚障碍者" と言っても、その障碍のあり方は多岐にわたります」と説明するのは、佐賀県立盲学校の教諭を務める青山 修二 氏です。全盲のようにほとんど目が見えないケース、ある程度近づけば見えるケース、逆に視野が狭いために近づきすぎると見えなくなるケース、視野の中央付近だけが全く見えないケースなどがあり、教育現場でのアプローチもさまざまなのだと言います。「ほとんど見えない子どもの場合は、点字とスクリーンリーダーが欠かせません。一方、拡大すれば見える子どもなら、タブレットと電子黒板を接続して大画面で表示するという方法が考えられます。逆に視野が狭い子どもなら、手元でタブレット画面を見る方が適しています。このように多様な使い方をする場合には、ソフトウェアはもちろんですが、周辺機器も多様なものに対応し、自由に動かしながら使えることが重要です。それができるのが Windows でした」と青山 氏は言います。

そして第 3 が、キーボードの存在です。ほとんど見ることができない視覚障碍の方が PC に入力を行う際には、画面に表示されるソフトウェア キーボードの利用は困難であり、手の触覚でキーの位置を確認できる物理的なキーボードが不可欠です。そのキーボードも USB や無線などで外付けするのではなく、タブレットと一体化させたり取り外ししたりが容易にできるリタッチャブルのタブレット PC が、その使い勝手から、理想的だったということです。また、学校ではキーボードで「S、D、F、J、K、L」などの 6 つのキーを点字の 6 点に見立てて入力する「6 点入力」を学習しているため、6 点入力に対応したキーボードが必須となり、ソフトウェア側でも 6 点入力への対応が必要です。

このような要件を満たせるのも、Windows だけだと宮田 氏は指摘します。

実際の機種選定は、学校側の意見を参考にしたうえで、佐賀県が入札を行うことで実施されました。この時、佐賀県立盲学校では、青山 氏が OS ごとのメリットとデメリットをまとめた資料を作成、Windows タブレットの採用を強く希望したと言います。これに基づき 2013 年 2 月に採用機種を決定。同年 3 月に Windows タブレットが導入され、初等および中等教育を対象に、1 人 1 台の環境を実現したのです。

<導入効果>
児童生徒の特性に合わせ多様な方法で活用
理科の実験や修学旅行の事前学習でも活躍

それではここで、視覚に障碍のある子どもの学習の場で、どのようにタブレットが活用されているのか、具体例を見ていきましょう。

スクリーンリーダーで画面の情報や入力した文字を読み上げ

紙の教科書や教材をほとんど見ることができなかったり、読むことに時間のかかる視覚障碍のある子どもは、PC の画面の情報を読み上げるソフトウェア「スクリーンリーダー」を使用します。佐賀県立盲学校では導入した全台に高性能スクリーンリーダーを予め搭載。表示されている漢字がどういう漢字か詳細を読み上げることもできるので、同音異義語の入力も間違えなく行えます。インターネットの情報もスクリーンリーダーで聞いて知ることができます。たとえば佐賀県について学習する授業では、佐賀県のサイトや観光情報サイトなど関連する情報をインターネット上から探し、聞いて理解することで、知識を深めています。

点字教科書と Windows タブレットを利用している授業例。キーボードにより文字を入力し、入力された内容は拡大表示され、その内容がスクリーンリーダーで読み上げられます。


6 点入力と点字対応

先に触れたように、学校ではキーボードで「S、D、F、J、K、L」などの 6 つのキーを点字の 6 点に見立てて入力する「6 点入力」を学習しています。6 点入力で点字も入力できますし、6 点で入力した文字がひらがななどで表示される Windows 対応のワープロ ソフトもあります。子どもたちが授業中の学習内容を 6 点入力を使って入力することもありますし (写真 1)、先生が点字の教材などを作成する際にも、Windows に対応した点字対応のソフトウェアや点字を打ち出すプリンターなどを使用することができます。

点字の教材を作成しているようす。佐賀県立盲学校ではインターネット上で公開されている点字コンテンツなどを活用し、校内で編集およびプリントアウトすることで、点字の教材を作成しています。そのための PC としては長期にわたって Windows PC が使用されており、その上で動くソフトウェアは重要な教育資産となっています。


ペンによる手書き入力で文字学習

今回導入された Windows タブレットはペンを標準で搭載しており、佐賀県立盲学校ではそれも活用されていました (写真 2)。Windows タブレットに標準搭載されている「入力パッド」は、ペンや指で文字を書くことで文字認識がされますが、それを正しい漢字を知るためや、読みのわからない漢字をペンで入力して読み方を調べるために利用しているのです。入力パッドに書かれた文字は、もちろんそのまま Microsoft Word などのワープロ ソフトに入力することもできます。タブレットでも、鉛筆を使うように、筆記の練習ができることも、利点です。

弱視の子どもが普通教科書とタブレットを利用している授業例。文字の拡大と読み上げが行われています。文字入力はキーボードとペンを使った手書き入力が併用されており、文字の書き取り練習も行われています。


指の操作で簡単に見やすく拡大

拡大するなど見え方を工夫することで画面を見ることができる子どもは、指で画面をピンチアウトすることで、簡単に画面の表示を拡大できます。指で画面を移動して、自分が見たいところを表示させたり、見やすいようにピンチアウト/ピンチインを行うことを、子どもたちは自在に行います。画面の全体でなく一部を拡大したい場合は、Windows に標準で搭載されている「拡大鏡」の機能も利用できます。

外部ディスプレイに接続

佐賀県立盲学校では、現在は大人数が一斉に授業に参加している教室はなく、少人数が授業を行う教室のみですが、そこでも電子黒板が便利に利用されています。手元の画面より、大きな画面で投影するほうが見やすい子どももいるため、その際は子どもか先生のタブレットと電子黒板を HDMI で直接接続して投影させます。特別なアダプターやソフトウェアを使用しなくてもすぐに接続できるのも、Windows タブレットの利点でしょう。

カメラの活用

タブレット PC に通常搭載されているカメラも有効活用されています。小さくて見にくいものをカメラを通して拡大させることで虫眼鏡や拡大鏡のかわりに使用することができますし、もちろんカメラなので、拡大させたものを撮影して後で確認することもできます。これは学習の場だけでなく、生活の場でも役立つと、ご自身も視覚障碍がある青山 氏が指摘します。また、このカメラ機能は、理科の実験でも活用されています。視覚障碍があるため近づかないと観察が難しいけれど、近づくことが危険な燃焼実験や、物の動きが速く目で追随するのが難しい実験では、タブレットのカメラ機能で撮影を行い、後で録画された動画を見ることで、実験を体験することができます (写真 3) 。その場でも後からでも拡大させることができますし、動きが速い時にはスロー再生にすることで、ようすを確認することもできます。

理科の実験におけるタブレットの活用例。燃焼実験のように近づいて見ることが困難なケースや、動きが速いため見えにくいケースなどでは、タブレットのカメラ機能で実験のようすを撮影し、画面で再生して確認するという方法がとられています。


視覚障碍ゆえの事前の情報入手の便利さ

修学旅行の事前学習でもタブレットが活躍しました。目的地まで実際のどのようなルートをまわるか、生徒自らがプランを考える学習がありましたが、ここで重要な情報源になったのが、インターネットから入手した地図と街のようすが見られるサイトでした。街で周囲が見えにくい視覚に障碍のある子どもにとって、初めての場所を旅行するのは大変不安なものですが、事前に現地の状況を詳細に把握し、それをタブレットで持ち歩くことができたことで、このような不安も払拭できたといいます。

「子どもたちも喜んで使っています。タブレットが嫌いな子どもなんて、いないのではないでしょうか。学習意欲を高めるツールとしても、大きな貢献を果たしていると思います」 (宮田 氏) 。

<今後の展望>
2014 年には高等部への導入も予定
ICT 活用が当たり前になることを目指す

このように佐賀県立盲学校では、タブレットが実に多様な形で活用されていますが、これらの活用方法はそれぞれの先生がアイデアを出して、校内の掲示板に投稿し共有されており、そこからさらに進んだ使い方が生まれることも少なくありません。今後はさらに新たな活用方法を開拓していくと共に、電子化されたコンテンツの拡充も目指したいと宮田 氏は語ります。

その一方で、児童生徒が自ら活用方法を生み出すケースも少なくないそうです。たとえばある生徒は、タブレットを辞書代わりに使っていると青山 氏は指摘します。多くのタブレットが導入され、子どもたちが自由に使える環境があるからこそ、子どもたちのタブレットの習熟はとても早く、また自分の特性にあった新たな使い方を見つけられる、それは視覚障碍があってもなくても同じことだと、子どもたちの可能性に驚かされるそうです。

佐賀県立盲学校を含む佐賀県内の特別支援学校では、2013 年度末から、高等部を対象にしたタブレット導入も行われました。高等部では Word や Microsoft Excel などのアプリケーション活用の教育も行う予定になっており、これによって就労のチャンスが拡大することにも期待が寄せられています。

「とにかく ICT の活用が当たり前になること、これが重要です」と山田 氏。1 人 1 台の環境の実現は、そのための大きな一歩だと語ります。「ICT を使いこなせれば、視覚障碍があっても情報アクセスが容易になり、これまで存在していた "バリア" を解消しやすくなります。学校でタブレットを使うことでこのことを実感してもらい、将来の社会生活にもその体験を活かしてほしいと思います」。

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