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導入事例

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  • 最適化
  • コスト

社会医療法人敬和会 大分岡病院

 様に導入

クラウド活用で、南海トラフ巨大地震に備えた災害時診療継続計画を、低コストかつ、わずか 2 日の超短期間に実現

社会医療法人敬和会 大分岡病院

社会医療法人敬和会 大分岡病院では、南海トラフ巨大地震による津波・浸水の被害が予想されていることから、災害時診療継続計画 (BCP) の実現を急いできました。しかし、電子カルテ データのバックアップと復旧方法の確立については、「3 省 4 ガイドライン」や「コスト」の課題を解決するのが難しく、長い間足踏み状態が続いていました。そして、2015 年。Microsoft Azure を活用することで、すべての課題を解消し、BCP を実現するのみならず、地域医療連携を支える情報ネットワークの向上にまで寄与できるソリューションを実現しています。

<背景とねらい>
救急車受け入れ数、県内民間病院ではトップクラスの実績を、災害時医療にも活かすために BCP の確立へ

社会医療法人敬和会
統括院長
大分岡病院院長
森 照明 氏

社会医療法人敬和会 大分岡病院
事務長
後藤 公成 氏

2014 年に創立 60 周年を迎えた社会医療法人敬和会 大分岡病院 (以下、大分岡病院) は、二次救急医療と地域医療支援病院として、地域一帯の急性期医療に貢献。救急車の受け入れも、年間 2,000 台を越え、県内民間病院ではトップクラスです。

また、社会医療法人敬和会が擁する「大分東部病院」、「介護老人保健施設 大分豊寿苑」、「在宅支援クリニック すばる」と連携して、高度な急性期医療から回復期のリハビリテーション、生活期、そして在宅までを地域で完結させる "敬和会ヘルスケアリンク" の運営にも取り組んでいます。

さらに地域医療への貢献を第一とする大分岡病院では、206 の病院・クリニックとうまく機能分化を図りながら、医療連携を強化。逆紹介率も常に、105 ~ 110% を保っています (2015 年 12 月 1 日現在)。

こうして地域医療に大きな役割を果たす大分岡病院にとって、この数年、「早急に解決すべき重要課題」となっていたのが、「災害時診療継続計画 (BCP) を支える、医療データのバックアップと、復旧方法の確立」です。

南海トラフ巨大地震の被害想定については、刻々と研究・検討が進められていますが、大分市は、2 ~ 5 m の津波に襲われる想定となっています (2012 年3 月 内閣府 南海トラフの巨大地震モデル検討会による)。
別府湾に近く、大野川と乙津川にはさまれた場所に位置している大分岡病院の周囲も場所によって、30 cm ~ 1 m ・ 1 m~ 2 m・ 2 m~ 3 m・ 3 m~ 4 m の浸水が予想されているのです (2014 年 3 月 大分県「大分県津波浸水想定」による)。
大分岡病院の電子カルテ データは、従来から日次でテープにバックアップをとっていますが、浸水等の災害発生時にテープを運び出すことも、再生するためのサーバー ハードウェアを確保することも困難を極めることは明白でした。

森 照明氏が 2013 年に大分岡病院の院長に就任して以来、大分岡病院では「情報の公開と共有」を 1 つの方針として掲げており、敬和会の 4 施設が連携する "敬和会ヘルスケアリンク" の情報共有基盤を Microsoft Office 365 に統一しているほか、電子カルテ システムについても、大分東部病院と共に株式会社ソフトウェア・サービス (以下、ソフトウェア・サービス) が提供するシステムを採用して一部のデータを連携させるなど、電子データ保全の重要性を増しています。

さらに、電子カルテのサブシステムを利用して、患者の同意の下に、十数の連携医療施設と検査データの共有も行っており、大分岡病院の電子カルテ データの保全と復旧が、連携医療施設の BCP にも、ある程度まで貢献できる期待まであります。

大分岡病院院長 森 照明 氏は次のように話します。

「当院は、20 年ほど前にも大野川の氾濫によって、地下に蓄積していた紙カルテやレントゲン フィルムなどを失ったことがあります。加えて、当院の近くには石油化学コンビナートもあります。いざ南海トラフ巨大地震が発生した際には、衛生面を含め、病棟自体が使い物にならなくなる可能性も高いのです。そのため、どこか別の場所に臨時の診療所を開設した場合でも、スムーズに電子カルテ システムを活用できる環境を整えることが重要でした。」

そこで、従来通りのテープ バックアップとは異なる方法で、データの保全と、災害時の復旧を図る手段を確保することが求められてきましたが、実現には、「3 省 4 ガイドライン (※) の遵守」や「コストの制限」、「セキュリティの確保」、「広く、共有・活用することも可能な、汎用性の確保」など、いくつものハードルがありました。

しかし 2015 年、大分岡病院は、ソフトウェア・サービスの協力の下、すべてのハードルを乗り越えるソリューションを実現しました。
それが、クラウド サービスである Microsoft Azure 日本データセンターを活用した、電子カルテ データの "リアルタイム フル バックアップ" と "あらゆる Windows PC を電子カルテ端末化する復旧方法" です。

※ 3 省 4 ガイドライン
  1. 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第 4.2 版 (厚生労働省)
  2. 医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン (経済産業省)
  3. ASP・SaaS 事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン (総務省)
  4. ASP・SaaS における情報セキュリティ対策ガイドライン (総務省)

<システム概要と選定理由>
電子カルテ システムをまるごと仮想化して、クラウド上に複製。災害時には、非常時参照用サーバーから、セキュアに医療データを活用

社会医療法人敬和会
医療情報課
課長
村田 顕至 氏

社会医療法人敬和会
医療情報課
SE 主任
小野 友和 氏

大分岡病院が実現した BCP 対策は、実にシンプルなシステム構成によって成り立っています (システム概念図参照)。

ソフトウェア・サービスが提供する電子カルテ システムを、大分岡病院に合わせてカスタマイズした各種設定やマスターごと、全てのデータを Azure 上に仮想化して複製。
さらに、データベースは数秒 ~ 数十秒単位、個別のファイルはファイル サイズにもよりますが、数秒 ~ 数分以内に、オンプレミス環境からクラウド上へとコピーしています。被災などによってオンプレミスのデータベースが停止した場合には、速やかにクラウド上のデータベース活用へと切り替わります。

また、大分岡病院では Azure の東日本リージョンのデータセンターを活用しているため、広範囲の被害が想定される南海トラフ巨大地震を前提にしても、データ喪失のリスクが可能な限り低減されています。

さらに特筆すべきポイントが、非常時には「あらゆる Window PC を電子カルテ端末化し、クラウド上のカルテ データを参照できる」ことです。社会医療法人敬和会 医療情報課 課長 村田 顕至 氏は次のように説明します。

「災害時に、テープはおろか、特定の電子カルテ端末を持って避難することは難しいでしょう。それに、先ほどの話の通り、災害時に救急患者を受け入れ、トリアージや災害医療などを行う場所がどこになるかもわかりません。次々に被災者が搬送される中でも、参照可能な医療情報が存在することで、目の前の患者さんにより適切な対応を行うことができるようになります。その為には、どのような状況下でも、速やかに医療情報を参照できる電子カルテ端末を用意できる準備が必要です。そして、予想される災害の規模や混乱の度合いから『どんな Windows PC でも活用できるようにすること』が、最善の方法だと考えました。」

この手段を実現させた方法も、シンプルです。
インターネット接続可能な Windows PCを電子カルテ端末化させるのに必要な「電子証明書」など、設定に必要なファイル一式を、Office 365 の OneDrive for Business に作成した特定のユーザーのみがアクセスできるフォルダーに保存。非常時には、ダウンロードして展開するだけで活用できるようになっています。カルテ データは Azure 上に設定された非常時参照用 Web サーバーに VPN 接続して「参照するだけ」であるため、PC 上には一切データを残すこともなく、情報漏えいや第三者によるデータの改ざんなどのリスクも避けられるようになっています。

「新しい Windows PC を調達して電子カルテ アプリケーションが使用できるようにイチから設定すると、1 日仕事になるでしょう。しかし、データを参照するだけの環境を構築するだけなら、Windows PC にクラウドから必要環境をダウンロードして展開するだけで、あっという間に完了します。災害時の救急医療は、時間の勝負です。今回のソリューションによって、患者の皆様からお預かりしている大切な医療データを失う恐れがほとんどなくなり、災害時にも柔軟かつ迅速に医療情報の参照環境を復旧させる準備が整ったことで、私たちも大きな安心感を得ることができました。」(村田 氏)

図.システム概要図[拡大図]新しいウィンドウ



3 省 4 ガイドラインに適合する根拠が明示された唯一のクラウド サービスで「実現までのスピード感」、「低コスト」、「安全性」など、すべての条件をクリア

大分岡病院が、Azure を選択した主な理由として、下記の 5 点が挙げられると、村田 氏は言います。

  1. 3 省 4 ガイドラインに、Azure が適合する、明確な根拠が存在する
  2. Office 365 など、ほかのマイクロソフトのクラウド サービス活用の実績があり、その信頼性を実感している
  3. 4G 回線やモバイル Wi-Fi など、非固定なグローバル IP アドレスからでも、VPN 接続できる
  4. Windows プラットフォームで構築されている電子カルテ システムと親和性が高く、オンプレミス環境と連携できる
  5. コストを大幅に抑えることができる

「最大のポイントは、日本国内 2 か所にデータセンターが開設されたことで、3 省 4 ガイドラインの絶対条件をクリアしたことにあります。さらに、細かな点でも『どこが、どう、ガイドラインに則しているか』、明確に整理した資料提供を早くから約束していただいたことが挙げられます。」と村田 氏。

さらに、「敬和会では、以前から情報系のシステムに Office 365 を活用してきました。その経験から、マイクロソフトのクラウド サービスについては、可用性、信頼性ともに高く評価しています。被災時のアクセス性の確保およびセキュリティ対策として、4G 回線などを通じた VPN 接続が可能であることが不可欠でした。その上で、既存電子カルテとの親和性も高く、コストも抑えられるとなれば、今回の選択は当然の流れだったと思います。」と続けます。

株式会社ソフトウェア・サービス
基幹第一システム部
次長
堀本 明男 氏

今回の構築をサポートしたソフトウェア・サービスの、基幹第一システム部 次長 堀本 明男 氏も「ガイドライン対応の根拠が細かく明示されているケースは珍しく、実現までのスピード感やコスト面など、あらゆる面で BCP 対策の理想形だ」と、話します。

「東日本大震災以降、数多くの医療機関からデータ バックアップおよび復旧のための相談をいただきました。プロバイダーの運用するデータセンター利用が望まれたのですが、費用面の折り合いがつかず頓挫してしまうケースが多々ありました。コスト面の課題を解消する方法として、協力関係にある医療機関同士で、互いの敷地内にバックアップ用のサーバーを設置し合う試みもあったのですが、個人情報の取り扱いやサーバー メンテナンスの責任等がネックとなり、広く普及するには至りませんでした。今回の Azure 活用は、そうした問題にとらわれない、とても良いモデルケースになっていると思います。」

システムの構築も、驚くほどスムーズに終わったと、堀本 氏は続けます。
「サーバー環境の調達から設定までは、ほんの数分で終わってしまいます。これは、クラウドならではのメリットです。そして、システム構築が 1 ~ 2 日程度で完了し、後は、1.5 TB ほどあるデータを複製するために 2 ~ 3 日を費やしただけです。あっけないほど、簡単に終わってしまいました。もちろん、運用開始後も、トラブルは起きていません。」

<導入効果と今後の展望>
自動運用によって、運用・保守の負担がゼロ。オンプレミス環境 + 人に依存したデータ保全に比べて、5 分の 1 以下の低コスト運用を実現

こうして実現した BCP 対策のメリットは、広範におよぶと、大分岡病院 事務長 後藤 公成 氏は言います。

「東日本大震災を機に、当院でも BCP のポリシーを策定し、備蓄品等の準備を進めてきましたが、今回のプロジェクトが完了したことで、ようやくひと区切りがつきました。当院の病棟は、医療への IT 導入が進むよりも、はるか以前に建てられています。そのため、サーバー類を冷やすための空調設備も、電源も、部屋ごとの耐荷重も、増え続けるサーバー ハードウェアや膨大なテープ類を、安心して運用するには、無理もあったのです。さらに、浸水の危険がある立地ゆえに、病院の移築計画も進んでいました。クラウドに移行できたことが、実に多くの課題解消につながっているのです。」

また、「運用の手間が一切かからないことも、大きなメリット」だと、村田 氏は言います。

「今回実現したシステムでは、データの複製に関しては、リアルタイムの自動複製運用となっています。データセンターも、日本マイクロソフトによって安全に運用されていますので、私たち病院側には一切の運用上の負担がありません。」

オンプレミス環境と比較した場合のコスト差も大きいと、村田 氏は続けます。

「もし、今回のような仕組みをすべて自前で運用した場合、いったいどれだけのコストがかかったことでしょう。たとえば、いざという時にテープを持って逃げるためだけに 24 時間 365 日サーバー室に勤務する人員を配置するという、ごく単純な方法での試算結果に比べて、Azure のランニング コストは 5 分の 1 で済みます。また、オンプレミス環境で構築した場合の導入コスト・空調・電気代や故障時の対応など、オンプレミス環境の導入・運用・保守にかかる費用と単純に比較しても、少なくとも 3 ~ 4 割近いコストを削減できていると試算しています。」

クラウドのハイブリッド院内 IT 環境で IT コストの平準化や今後需要の増していく、在宅ケアの円滑化まで、効果が波及

社会医療法人敬和会 医療情報課 SE 主任 小野 友和 氏はさらに、「今後、院内の IT システムを最適化していく上でも、大きな収穫があった」と言います。

「今回のシステム構築においては、オンプレミス環境においた認証サーバー (Active Directory) とデータベース サーバー (SQL Server) を、Azure 上においた仮想マシンと容易に連携させられたことに、大きな手応えを感じています。今回の経験を活かし、クラウドとオンプレミスのハイブリッド活用を広げていくことで、ハードウェアとソフトウェアの依存関係を切り離し、それぞれのライフ サイクル最適化を進めることができると感じています。この構想が進めば、数年単位のリプレースによって、大きな山を描いていた IT コストの平準化も図れます。」

また、後藤氏はクラウド活用を進めていくことが、経営負担の軽減のみならず、「高齢化率 約 24% の大分市 (2015 年 9 月末時点) の地域医療への貢献に、さらにつながっていく」と強調します。

「今後、ますます高齢化が進むことで、在宅ケアのニーズが増していくことでしょう。そうした時、ノート PC などのモバイル端末と、クラウド化した電子カルテを活用することができれば、在宅でも検査データの確認やバイタル データの収集などが円滑になり、医療の質的な向上に直接的に影響します。今後、セキュリティ ポリシーの検討や、システムの検証など、さまざまな課題はありますが、ヘルスケアリンクの充実にもつながっていくと思います。」

BCP の実現から、医療 IT のライフ サイクル最適化、そして高齢化の進む地域医療へのますますの貢献と、クラウドをキーとしたシステム活用の可能性が大きく広がっていることについて、森 氏は次のように締めくくります。

「今は、情報ネットワークの時代です。それは医療の現場においても変わりありません。医療データを適正かつ安全に共有、活用し、敬和会内部および地域の連携施設とのコミュニケーションの質を高めていくことで、敬和会ヘルスケアリンクの質を高め、地域にますます貢献していくことができると考えています。営利を目的としない私たち医療機関にとって、少ない投資で、より多くの可能性を入手できるクラウド サービスは、とても大きな価値を持っています。今後も、より安全かつ効果的な活用を検討していきたいと思います。」

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