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導入事例

 様に導入

  • コミュニケーション
  • 効率化

富山県立ふるさと支援学校

 様に導入

特別支援学校での認知機能の改善、基礎学力の向上、自立支援にタブレット PC が貢献
全国のモデル校として、タッチ パネルを使ったアイデアあふれる授業を展開

富山県立ふるさと支援学校

富山県立ふるさと支援学校

特別支援学校として、平成 23 年度の総務省「フューチャースクール推進事業」および文部科学省「学びのイノベーション事業」の委託先に選ばれた富山県立ふるさと支援学校は、2012 年 2 月に 69 台のタブレット PC「ASUS Eee Slate B121」を導入。独自の教材ソフトウェアの開発しやすさや高性能な端末の特徴を活かして、4 月から本格的に学内の全教員および全児童生徒が 1 人 1 台のタブレット PC を利用し、障害のある児童生徒の認知機能の改善、基礎学力の向上、自立支援などに役立て、校務の効率化にも活用しています。

<導入の背景とねらい>
ICT 機器や最新技術の導入によって
学習環境の整備と指導法の改善を行う

富山大学 人間発達科学部
教育情報システム学
教授・工学博士
山西 潤一 氏

病弱特別支援学校として、独立行政法人国立病院機構富山病院 (以下、富山病院) に隣接し、慢性疾患や心身症等の児童生徒が通学する富山県立ふるさと支援学校 (以下、ふるさと支援学校) は、小学部、中学部、高等部のほか、重度・重複障害のある児童生徒に対して病棟での訪問教育も行っています。一般的な小中学校とは異なり、児童生徒ごとの基礎学力の違いや興味・関心の違いがある同校では、日ごろから教員による工夫や努力で学習環境の整備に努めてきました。

平成 23 年度の総務省「フューチャースクール推進事業」および文部科学省「学びのイノベーション事業」の委託先候補として手を上げたふるさと支援学校は、全国で 2 校の特別支援学校の委託先の 1 つとして選択され、ICT を活用した学習環境作りに取り組んでいます。このプロジェクトを推進している富山大学 人間発達科学部 教育情報システム学 教授・工学博士で、富山県教育委員会の教育委員も務めている山西 潤一 氏は、同事業の委託先として選ばれた経緯を次のように話します。「フューチャースクール推進事業の委託先には積極的に取り組んでくれる学校を公募していました。平成 23 年度の公募の対象が中学校と特別支援学校であった中で、富山県立ふるさと支援学校が手を上げてくださいました」。

ふるさと支援学校は、もともと新しい技術を取り入れて、教育改革を行おうという意識が高い学校でした。十数年前も、隣接する富山病院とふるさと支援学校との間を光ファイバーでつなぎ、テレビ会議システムで病棟でも授業を受けられるように実証実験を行っています。さまざまな工夫を行いながら生徒の集中力や学習意欲を高める必要のある同校では、フューチャースクール推進事業などに参画することによって ICT の教育利用や指導法の改善を行おうと考えたのです。

同事業の適用範囲は、ふるさと支援学校の高等部を除く、小学部、中学部、訪問教育の 30 名の児童生徒となっています。山西 氏は、「事業を進めるにあたっては、小学部、中学部、訪問教育の先生方に趣旨を伝え、中心となる先生方に研究室に集まっていただき、具体的にどのようなことを行うかを相談しながら 3 つのテーマを決めていきました」と、認知機能の改善、基礎学力の向上、自立支援の 3 つを柱に事業を推進していったことを明かします。

まず、認知機能の改善では、脳性まひや呼吸制御など、重度・重複障害の児童生徒が病棟で教育を受ける訪問教育において、自分の意思で何かを行うという活動を支援することが考えられました。1970 年代から「応答する環境」という研究を行っている山西 氏は、働きかけに対して反応が示されることによって学びが成立すると考え、重度・重複障害の児童生徒に対して ICT を使って何らかの形で応答する環境を作り認知機能を改善していくことを目指しました。

2 つ目の基礎学力の向上では、障害や病状によって、発達年齢に応じた基礎学力に個人差があることが課題となっていたため、これらを改善するために ICT を使った個に応じた効率的な教材を作ることが目的となりました。集中力が持続しない児童生徒の学習意欲を向上させて基礎学力を定着させることも目標としています。

さらに 3 つ目として、自らの生活の振り返りや目当てを持って学習に取り組む態度を育成すべく、タブレット PC による自立支援を行うことも重要なテーマとして考えられています。

<導入の経緯>
使い慣れた Windows 環境で
手軽に教材作りを行える

富山県立ふるさと支援学校
教頭
山田 敏彦 氏

フューチャースクール推進事業および学びのイノベーション事業では、各教室への電子黒板の整備、教員および児童生徒 1 人 1 台の PC 環境の整備、ユビキタス環境の整備が行われます。ふるさと支援学校でも、2012 年 2 月に 11 台の電子黒板が各教室や体育館に導入され、69 台の Windows 7 搭載タブレット PC の ASUS Eee Slate B121 (教員 30 台、児童生徒 30 台、予備 9 台) が導入されています。

「選定には非常に悩みました」と話す山西 氏は、ふるさと支援学校の教員と話し合いながらさまざまな OS の端末を議論していったと言います。「Windows 7 が搭載されたタブレット PC に決定したのは、社会、数学、技術家庭などで Microsoft Office を使った教材作りを行っていた先生が何人かいて、使い慣れた Windows が良いという要望があったことが大きかったですね」と話す山西 氏。

また、児童生徒に合わせた教材作りがしやすいこともタブレット PC の優位点でした。「研究チームや大学の生徒、ICT 支援員が Microsoft PowerPoint やコンテンツ制作ツールを使って手軽に教材を作ることができ、高度なアプリも C 言語で開発できます。また、認知機能の向上のために入力センサーをカスタマイズしているので、デバイスをつなぎやすい Windows マシンは有効だったと思います」 (山西 氏)。

端末の選定は、反応が速く操作性が良いことが重視されました。一般的な児童生徒であれば、多少タッチ パネルの反応が悪くても理解できますが、障害のある児童生徒の場合は、反応の遅れが学習意欲の低下につながることもあります。そのため、CPU にインテル Core i5 プロセッサーを搭載し、「Wacom feel IT technologies」でタッチ パネルの反応や文字認識が高い ASUS Eee Slate B121 が選ばれました。

機器の導入後は、3 月から ICT 支援員が中心となって教員からの要望を聞きながら教材を開発し、4 月からの本格導入を目指しました。ふるさと支援学校の教頭である山田 敏彦 氏は、当時を振り返って次のように話します。「3 月から先生方にタブレット PC が配られ、ICT 支援員の協力でソフトの開発などを行いました。先生方も非常に熱心で、タブレット PC や電子黒板を使った授業を工夫し、独自ソフト以外にもインターネット上の教材なども活用しながら授業を行っています」。

また、山西 氏も「小学部や中学部、訪問教育の各グループごとの先生と個別に打ち合わせし、ICT 支援員にも研究室に来てもらって技術を教育にどのように活かすかを話し合いました。どのような学習環境を作り、教材を準備し、どのように指導していくかを、まさに走りながら考えていきましたね」と話します。

授業では、タブレット PC 上の教材を使って教員と児童生徒がコミュニケーションを取りながら、学習意欲を高めるような取り組みが行われている

授業では、タブレット PC 上の教材を使って教員と児童生徒がコミュニケーションを取りながら、学習意欲を高めるような取り組みが行われている


ICT 支援員の細かなサポートを受けながらタブレット PC を使った教育を進め、教員の要望に基づいた教材作りと改善が行われていることもふるさと支援学校の大きな特徴

ICT 支援員の細かなサポートを受けながらタブレット PC を使った教育を進め、教員の要望に基づいた教材作りと改善が行われていることもふるさと支援学校の大きな特徴

<導入効果>
タブレット PC を使って応答させることで
児童生徒の表情が見違えるようになった

タブレット PC の導入は、訪問教育の認知機能の改善で非常に大きな効果が得られたといいます。ふるさと支援学校では、たとえば顎だけが動く児童生徒に対して、顎を使ってどのように応答してもらうかを考え、児童生徒に合わせたインターフェイスを工夫して利用しています。教員の補助で画面をタッチすることで絵が動いたり、音が出たりする仕掛けを作り、応答させることで児童生徒の視点が定まり、やろうとする意思が生まれていることが表情に出てきていると山西 氏は言います。「先生方も児童生徒の応答が得られて明らかに表情が変わることを体験することで積極的に工夫を行うようになりました。さまざまなインターフェイスへの要求やアイデアが出てくるようになっています」。

また、山田 氏も「指が握られた状態で握力もなくタッチ ペンを握れない生徒には、棒の先にピンポン玉大のボールを付けてアルミ箔を貼ったものを作り、入力しやすくしています。そのほかにも、たくさんの工夫が日々行われています」と話します。ボールを握ることで反応するようなデバイス作りや、将来的には RFID (微少な無線チップ) をシールや輪ゴムのように指に巻いて反応させることも考えられています。

もともとゲームなどが好きな小学部の児童は、ゲーム感覚でドリル形式の教材を繰り返し使うことができ、基礎学力向上の効果が期待できると言います。集中力のない児童も、タブレット PC やソフトに興味を持つことで、少しでも長い時間学習を持続できるようになりました。また、中学部では高校受験に向けた学力を高めるためにそれぞれのレベルに合わせて教材を電子化することが考えられています。

自立支援に関しては、グループ コミュニケーションで今日の健康状態に関する簡単な質問を行い、自分で健康状態を申告させたり、学習の振り返りを行って、記録を付けています。これらの作業を児童生徒と教員が同じタブレット PC や電子黒板の画面を使って共有することで、コミュニケーションをスムーズに行えるようになったことも効果の 1 つと言えます。「小学部や中学部の子供たちはデジタル ネイティブな子供なので、興味を持って学習できます。先日、振り返りの授業を見学したときに、子供たちが自分の意見を積極的に話すようになり、抵抗なく自分の振り返りを人前で発表できるようになっていることに驚きました」と山西 氏は話します。

そのほかにも、体力測定のソフトを作って、富山県の平均と自分との比較をグラフで見せたり、国語の読み合わせの授業をあらかじめ録画しておいたビデオを使って行ったりなど、さまざまな教材作りを行いながら、ふるさと支援学校の授業は進められています。また、校務の効率化にタブレット PC が役立てられることも期待されているようです。「これまでは、健康管理の細かい項目を教員が紙に入力し、養護教諭が集めてデータ入力していましたが、タブレット PC に教員が入力すればサーバーにデータが蓄積されるため、校務の情報化がスムーズになると思います」 (山田 氏)。

訪問教育では、シンプルな絵がタッチに合わせて動いたり、花火が打ち上がったりなどの応答に対する反応を返すことで、重度・重複障害の児童生徒の認知機能改善が行われている

訪問教育では、シンプルな絵がタッチに合わせて動いたり、花火が打ち上がったりなどの応答に対する反応を返すことで、重度・重複障害の児童生徒の認知機能改善が行われている


英語の授業で使われるフルーツ カルタ。ネイティブの発音に合わせてカードをゲーム感覚で取り合う

英語の授業で使われるフルーツ カルタ。ネイティブの発音に合わせてカードをゲーム感覚で取り合う

<今後の展望>
特別支援学校の学習環境づくりには
現場の工夫と研究者・企業のサポートが不可欠

ふるさと支援学校では、将来的に向けて、児童生徒に社会との関わりを持たせる計画も推進しています。「障害のある子供たちは、社会との関わりが少ないという課題があります。しかし、いずれは社会に出て行かなければなりません」と話す山西 氏は、NPO 地域学習プラットフォーム研究会が作成している「e-手仕事図鑑」というさまざまな仕事が動画になっているコンテンツの中から子供たちが興味を持ちそうなものを選んでポータル サイトを作って見せていると言います。また、テレビ会議システムで興味を持った職種の人と直接対面しながら対話できる授業を行うことで社会との関わりを強め、働くことの意味を教え、将来に夢を持たせるようにしています。

また、前述の振り返りの授業で児童生徒たちが積極的に発言しているのを見て、山西 氏はこれまでの考え方が変わったことも明かしてくれました。「これまではコラボレーションやコミュニケーションが苦手ではないかと考えていました。フューチャースクール事業の中には、教え合いや学び合いといった協働教育というテーマも研究の 1 つとして打ち出されていますが、特別支援学校では協働教育は難しく、自分の学びで精一杯と思っていたのです。しかし、授業を見学すると、1 つの画面を使って複数の生徒で物語を作るといった可能性もあるのではないか、と気付かされました。チャレンジしてみてもよいのではないかと考えています」。

また、山田 氏は「タブレット PC を導入することで児童生徒の学習意欲が向上しましたが、これをこのまま続けていくと、また集中力がなくなることも考えられます。今後も、どう興味を持たせるかを考えながらソフトや教材を作っていかなければなりません。それをやりやすくするのも、ICT 機器の力だと思っています」と話します。

最後に、「先生方には、子供たちがどのように変わっていくかを記録してほしいですね。子供たちの変容をきちんと記述していくことで、フューチャースクール推進事業に選ばれている特別支援学校 2 校のうちの 1 校として、全国の同じような障害のある子供たちの ICT による学習支援モデルになるような活動をしたいと思います」と山西 氏は、今後の意欲を語ります。

そのためには、現場の教員、ICT 支援員、研究者などの努力だけでなく、技術力のある企業のサポートが不可欠だと山西 氏は話します。「子供の日常や学びの状態を一番知っている先生方は、難しいことは考えず、アイデアをどんどん出してほしいですね。それを研究者や支援してくれる企業の技術力でサポートし、一体となることで実証実験や研究になると思います」。

ふるさと支援学校では、今後も ICT 機器を工夫して使いながら、特別支援学校における教育の情報化や教材の開発、指導法の研究を推し進め、全国のモデルとなるような学習環境作りを目指していきます。

ふるさと支援学校が導入したタブレット PC

ふるさと支援学校が導入したタブレット PC

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